サブスタンスとは物質という意味で、 Pはペプチドの頭文字です。 サブスタンスPという物質は、11個のアミノ酸から出来ているペプチドで、私たちの体の中で、神経伝達物質として作用しています。
物を食べたり飲んだりすると、嚥下反射が起きます。また気管に唾液などが入りかけると咳反射が起きます。サブスタンスPは、のどや気管の神経に貯えられていて、これらの反射を引き起こすきっかけになる物質です。
このサブスタンスPの貯えが減るとどうなるでしょうか。嚥下や咳の反射が減って、嚥下障害がなくても口腔内の唾液などを気管へ誤嚥しやすくなります。健常者でも、睡眠中は嚥下や咳反射が減りわずかな誤嚥を生じていると言われています。サブスタンスPの神経末端での貯えが減ると、ますます夜間の誤嚥が増えていきます。誤嚥しているとは、はっきり分からないので、不顕性誤嚥と言います。
どのような時にサブスタンスPの減少がおこるかというと、サブスタンスPの合成を刺激するドーパミンが減る時です。ドーパミンは、脳内の黒質線条体で作られていますので、この部分の脳血管障害やパーキンソン病の時にサブスタンスPが減少することになります。
減っているサブスタンスPを増加させる薬物としては、降圧剤であるACE阻害剤・抗血小板薬のシロスタゾール・パーキンソン病薬であるアマンタジン・カプサイシンがあります。また、これら以外で不顕性誤嚥を減らす作用のある予防薬として、半夏厚朴湯・メンソールなどがあり、予防策として口腔内を軽く刺激するような口腔ケアがあります。
睡眠薬・精神安定剤・抗ヒスタミン剤などは、嚥下・咳反射を低下させます。睡眠時無呼吸も、無呼吸中に貯まった口腔内分泌物を呼吸再開時に一気に誤嚥することがあると言われています。
食べたり飲んだりしている最中のムセや嘔吐時の誤嚥は、直感的に「誤嚥性肺炎・誤嚥性気管支炎」の原因として危険だと判りやすいと思います。一方、不顕性誤嚥は突然の危険性は感じられませんが、多くの嚥下性肺炎の原因になっています。
もっとも、口腔内の細菌が肺に到達しても直ちに肺炎を発症するわけではなく、到達量の増大・蓄積や気管支・肺の局所防御の低下(インフルエンザ感染時や繰返す気道感染の結果としての肺構造の破壊など)、全身状態悪化などがあると発症します。口腔内の保菌量を減らす口腔ケアも嚥下性肺炎の発症を減らしますが、鼻腔からの細菌逆流が残ります。
不顕性誤嚥は、液体や食物を積極的に嚥下させて行なう「嚥下機能評価」のみでは、評価できません。経口摂食ができているという確認だけでは、嚥下性肺炎の危険を見落としてしまいます。
不顕性誤嚥の予防を積極的に行い、高齢者の方々の肺炎を1人でも減らしたいものです。
医師 玉田