新しい睡眠薬(オレキシン受容体拮抗薬)
睡眠薬というと「ベンゾジアゼピン系」というタイプが主流でした。脳内神経伝達物質の中で、抑制的に働くGABA(ガンマアミノ酪酸)という物質があります。GABA受容体には、ベンゾジアゼピンの結合部位があり、ここに薬が作用するとGABAの働きが強くなるため、身体の興奮が抑えられ、睡眠作用・抗不安作用・筋弛緩作用などを催します。作用時間や効果の違いなど、いろいろな種類の薬が開発されましたが、「ベンゾジアゼピン系薬剤」には、筋弛緩作用による脱力で転倒する危険性、高齢者で錯覚や幻覚を伴うせん妄が起こる危険性などの問題点も多く指摘されていました。その後、睡眠薬の開発が進み、「非ベンゾジアゼピン系」の「マイスリー(ゾルピデム)」という薬剤が登場しました。「マイスリー」は、ベンゾジアゼピン骨格を持たない睡眠剤で、ベンゾジアゼピン受容体の「ω1」サブタイプだけに特異的に結合します。ベンゾジアゼピン受容体には「ω1」「ω2」などのサブタイプがあり、「ω1」は睡眠作用、「ω2」は抗不安作用・筋弛緩作用に関係しているという報告があります。「マイスリー」は「ω2」に作用せず、睡眠導入以外の作用が出にくいことや、効果も短時間であることから睡眠導入剤として多くの患者さんに処方されています。「アモバン(ゾピクロン)」と、その光学活性体「ルネスタ」も、「非ベンゾジアゼピン系」で、特に2012年に発売された「ルネスタ」は、「マイスリー」よりも効き目が長く、寝ている途中で何度も起きてしまう「中途覚醒」に有効だという報告があります。
近年、「ベンゾジアゼピン受容体」以外に作用する薬が開発されています。2012年に発売された「ロゼレム」という薬は、脳内の「メラトニン受容体」を活性化します。もともと人間には「夜になったら眠る」という体内時計があり、朝に太陽の光を浴びることで「メラトニン」というホルモンの分泌が抑制されます。ロゼレムは、メラトニンの作用を強めることで、身体が自然と睡眠に傾くようにする薬剤です。そして今月、「オレキシン受容体拮抗薬」という、新しい睡眠薬「ベルソムラ」が発売されました。「オレキシン」は脳の視床下部から産生される物質で、睡眠障害の一つである「ナルコレプシー」の病態に深く関与しており、覚醒状態の維持に関係している物質です。「ベルソムラ」は、脳の覚醒に関わるシステムを抑制して、脳の状態が覚醒から睡眠に切り替わることを助け、自然な眠りへと導くとされています。
昨年以降、厚生労働省の指示により、「睡眠薬」を服用されている患者さんには、自動車運転を控えるよう指導させていただいています。睡眠薬の効果が持続する時間は患者さん個々で違いがあり、人によっては翌朝以降まで睡眠薬の作用が残ってしまい、運転中の眠気などから重大な自動車事故につながる恐れがあるためです。いろいろな種類・効果の違うお薬が登場していますので、不眠でお困りの方は、家族や知人のお薬を独断で借りるなどせず、医療機関を受診して自分に合ったお薬の処方を受けるようにしましょう。
薬剤師 いっちー
最近のコメント